音楽との出会いは「タイムトンネル」—大貫憲章が語る、ロックイベントの楽しみ方
8月29日に、福岡ソフトバンクホークス主催のロックイベント「THE GREATEST ROCK FUKUOKA」(愛称:FUKU ROCK)が福岡で初開催される。本イベントの開催にあわせ、音楽評論家・DJとして半世紀以上にわたりロックシーンを見つめ、DJイベント「LONDON NITE」を40年以上主宰してきた大貫憲章氏に、これまで音楽やライブの現場でどんな楽しみ方をしてきたのか、じっくりと聞いた。

「音楽が好き」という、ただそれだけの原動力
LONDON NITEを40年以上続けてこられた原動力は何だったのでしょうか。
やっぱり一番は、自分が音楽好きだということが前提としてありますよね。ロックが好き、音楽が好き。それまでは評論家として原稿を書く仕事が中心でしたが、現場でお客さんを目の前にしてレコードをかけるというのは、当時のディスコが本当に初めてだったんです。これはいい機会だなと思って始めて、それが単純に楽しかったから続けてこられた。そこが最大のポイントです。
選曲には何かテーマのようなものがあるのでしょうか。
イベントに合わせてテーマを決めることもありますが、LONDON NITEという名前がついているからといって、別にロンドンの曲だけをかけているわけではないんです。基本的には洋楽を中心に、ということでやらせてもらっています。
集まる方々には、どんな共通点があると感じますか。
基本的に音楽が好き、ロックが好きという方が多いですね。今は小さなクラブ、昔で言えばディスコですが、いずれにしても飲食を伴う場ですから、飲んだり食べたりおしゃべりをしながら、社交的な要素も含めて楽しい場所を求めている。そして好きな音楽が流れていて、好きなDJがいる。そういうことだと思います。年齢層でいうと、平均すると40代から50代くらいの方が多い印象ですが、その中に60代の方もいれば、20代の方もいる。お子さんを連れてこられるお父さんなんかもいて、そういう形で音楽が引き継がれていくのもいいものだなと思いますね。
DJとしてさまざまな時代のロックをかけることを「音楽のタイムトンネル」と表現されていますね。
僕の場合、本当に長くやっていますから。LONDON NITEも46年、音楽評論の仕事も50年以上になります。10代の初め、12、3歳くらいの頃から音楽に興味を持ち始めてラジオを聴くようになって、そこからの蓄積がずっとある。特に洋楽が好きでしたから、その蓄積の中から、自分が今日聴いてみたい、あるいは今日聴いてほしいと思うものを引っ張り出してくる。いわばタイムマシーンのように、いろんな時代の音楽をみなさんに届けたい、という気持ちでやっています。さすがに2000年代以降のものは少なくなりますが、60年代から2000年代くらいまでの中から選んでいる、というのが正直なところですね。
地方のロックイベントと、福岡という街の音楽伝統
これまで地方のロックイベントにも数多く関わってこられたそうですね。
九州でDJをやったことはありますが、地方で印象に残っているのは、たとえば大阪の野外イベント「8.8ロックデイ」ですね。8月8日に初めて開催されたのでこの名前がついたと記憶しています。それから、石川県小松市で開催されていた「夕焼け祭り」というイベント。当時付き合いのあったバンドの人たちと一緒にバスに乗って見に行った思い出もあります。あとは北海道の「RISING SUN」ですね。あちらにも出演させていただいたことがあります。地方のイベントに関わるようになったきっかけは、基本的には仕事の関係です。バンドコンテストの審査員をやってほしい、といった依頼が当時はよくありました。
地方のイベントならではの魅力はありますか。
そんなに意識して捉えたことはないんですが、それぞれの場所に、それぞれの特徴はありますね。バンドのカラー、イベントのカラーもある。夕焼け祭りはフォークロックやブルースロック的な色合いが強かったですし、RISING SUNは北海道のバンドだけでなく日本中からバンドが集まる多様性がありました。DJとしての感覚で言うと、地方のお客さんは、僕らのようなDJが東京から滅多に来ないぶん、すごく熱心で、熱い気持ちで見てくれているのがよく伝わってきますね。
80年代には「めんたいロック」というムーブメントもありました。
その言葉が生まれる前に、まずサンハウスというバンドが東京に出てきたんです。ギターの鮎川誠さんの存在も含めて、それを見て、九州にもこんなバンドがあるんだな、と興味を持ちました。それからすぐ、70年代後半くらいから、THE MODSのようなバンドが次々にデビューしていって、「めんたいロック」という呼び方が広まっていった。福岡にはもともと、武田鉄矢さんの海援隊や長渕剛さんといったフォーク出身のアーティストもいたし、チューリップという人気バンドもいました。ライブハウス文化を含めて、豊かな音楽的土壌があったと当時よく聞きました。その最新の形が、80年代の「めんたいロック」として東京でも話題になったんだと思います。
野球球団が音楽イベントを主催することについては、どう感じますか。
ロックに限らず、あちこちの野球場は昔から音楽で使われていますよね。今でもありますし、福岡ドームでもマイケル・ジャクソンやボン・ジョヴィなど、いろんなアーティストがやってきた歴史がある。だから今回が初めてというわけではないと思います。球団が、というよりも、コンサートができる箱を持っているというのは、自然な流れなんじゃないでしょうか。
「その場にいること」の意味 —— 知らないバンドでも、家族でも
出演者の中に知らないバンドがいても、楽しめるものでしょうか。
もちろんです。たとえば出演するバンドが5つあって、そのうち1つ2つは知っているけど、ほかは分からない、という方もいると思います。でも、その現場にいるということが大事なんですよ。その場で、その時の空気を感じる。それがライブの意味であって、肌感覚が大事なんです。自分自身、かつて海外までライブを見に行かせてもらったことが何度もありますが、正直、名前すら忘れてしまったバンドもある。それでも、その時に見た感覚――周りの空気感だとか、会場の雰囲気、来ている人たちの年代、周りでどんなふうに過ごしていたか――そういうことはよく覚えているものです。結局、その場にいるということが参加するということで、バンドを全部聴くかどうかがすべてではない。それは僕の中で、昔から変わらない考えですね。
ご家族での参加についてはどう思われますか。
むしろそのほうがいいと思っているんですよ。せっかく旅行がてら九州まで行くのであれば、一人で行くよりも、ご家族でいろんな方と行くほうがいい。音楽に興味があれば、お父さんが「これは行っておいた方がいいぞ」と誘って、一緒に行ってみようか、となる。その代わり、おいしいものも食べさせてあげる。そういう体験は、きっとお子さんの記憶にもずっと残ると思うんですよね。
福岡を旅するように楽しむ、そして初めての方へ
首都圏の方が福岡までわざわざ足を運ぶ価値については、どう考えますか。
自分も含めて高齢になると、簡単に動くのは難しくなりましたが、50代、60代の方々は、まだまだファンとして十分に若いですし、旅行もよくされている方が多いと聞きます。九州は、感覚としてはそんなに遠くない。そこで自分の好きなバンドが見られるのであれば、たとえば1週間の旅行のうち、何時間かをライブに充てるというのは十分にありえることだと思います。福岡はラーメンをはじめ、名物やおいしい食べ物がたくさんある街ですから。旅行と音楽を両方楽しめるというのは、大きな魅力だと思いますよ。
初めてこうしたイベントに参加する方への心構えやアドバイスはありますか。
旅行の必需品はもちろんとして、会場の中で言うと、盛り上がって汗をかいたときのために、あらかじめ自分でTシャツやタオルを用意しておくといいと思います。会場でもTシャツなどのグッズは売っていますが、それに着替えるのもいいですし。ドームの中なので雨の心配はありませんし、極端な高温になることもなさそうなので、そこは安心してもらって大丈夫です。あとは、ライブが始まる前に、トイレだけは必ず済ませておいたほうがいいですね。
知っているバンドか、知らないバンドか。そんなことよりも、その場に身を置き、空気を肌で感じること――大貫氏の言葉には、半世紀以上にわたって音楽の現場に立ち会ってきた人だからこその、シンプルで揺るぎない哲学があった。8月29日、福岡の地で鳴らされる音を、それぞれのペースで楽しんでみてほしい。
プロフィール
大貫 憲章(おおぬき・けんしょう)
音楽評論家・DJ。1976年より音楽評論家として活動し、DJイベント「LONDON NITE」を1980年より主宰。パンク・ロックをはじめとして、60年代以降の幅広い洋楽ロックの魅力を長年にわたり日本に紹介し続けている。